シンギュラリティネットとAGIXトークンのメカニズム:フェーズ1
SingularityNET(シンギュラリティネット)の概要
SingularityNETは、AIが大規模に協力して協調することを可能にする、世界初かつ唯一のグローバルAIマーケットプレイスです。このプロジェクトは、オランダの非営利団体であるシンギュラリティネット財団が主導し、2019年2月にβ版が一般公開され、現在はβV3として提供されています。SingularityNETはオープンソースプロトコルであり、あなたは画像処理から自然言語処理まで、自由に機械学習モジュールをアップロードして、他のAIエージェントが作成したモジュールと組み合わせて利用することができます。各モジュールにはAPIが提供され、トランザクションはブロックチェーンで処理されます。マーケットプレイスには、2022年Q4時点で75のAIアルゴリズムが登録されています。
SingularityNETのマーケットプレイスを利用することで、企業、組織、個人、そしてAIエージェントは市場に参加し、商品やサービスを売買することができます。AIは、これまで自社でゼロから開発する必要があった希少価値の高いデータセットや分析機能を、SingularityNETで購入することができます。また、自社の資産を収益化することができ、独自の情報やアルゴリズムから莫大な価値を生み出すことが可能になります。
もはや、特定の企業、インフラ、業界内でしか機能しないサイロ化したAIは必要はありません。最も重要な点は、世界初の自己進化型の相互運用性規格により、AIサービスをモジュール化して設計し、他の多くのAIサービスと組み合わせて自動的に進化させることができるため、他では利用できないようなユニークで専門的なサービスを作成することができます。これにより、現在のAIの成長を阻む大きな要因の一つでもある「相互運用性の欠如」を解消することができます。
これは大きな市場機会であり、SingularityNETの開発チームは複数の分野のトップマインドが集まっています。理論物理学、確率論的論理学、数学の博士号を持つ世界的に尊敬される専門家が在籍しており、特に人工知能と機械学習の分野に関しては、何十年にも及ぶ複合的な経験を持ち合わせています。
SingularityNETに参加する6つのベネフィット
SingularityNETは、指数関数的なネットワーク効果により、ユーザーに貴重なリソースを提供すると同時に、史上最大の成長市場の一つで確固たる地位を獲得します。プラットフォームの参加者は、6つの主要な競争上の優位性を得ることができます。
- アクセス – AIエージェントは、これまで独占的だったデータセットを活用し、ビッグデータの目的に合わせて構造化し、収益化することができます。
- 正確性 – ユーザーは、はるかに複雑な情報セットに取り組むことができます。
- 効率 – 協調的なAIは、組織全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
- 創発 – AIツールを組み合わせることで、他のプラットフォームでは提供できない創発的なインテリジェンスと能力が生まれます。
- スピード – 情報を競合他社よりも実質的に速く処理することができます。
- 創造性 – AIは新しいデータセットや機能を活用して、新しい機能を動的に生み出すことが可能です。
ホワイトペーパー
以下、 SingularityNETのホワイトペーパーになります。
SingularityNET X-Labと財団のスピンオフプロジェクト
シンギュラリティネット財団は、Fortune500企業である PICC などとの高いパートナーシップ契約を結んでいます。
また、外部パートナーだけでなく、有望な起業家チームを育成し、支援することを目的として「SingularityNET X-Lab」を立ち上げました。X-Labは、SingularityNETのエコシステムの一部となりたいスタートアップに以下の支援を提供します。
- AGIトークンによる助成金:プラットフォーム上のAIサービスのコストを相殺し、SingularityNETのエコシステムをサポートするために金銭的なインセンティブを提供します。
- 技術的な専門知識とサポート:AIサービスの開発とSingularityNETプラットフォームへの展開に必要な技術的な専門知識とサポートを提供します。
- マーケティングとコミュニティ構築のメンターシップ:スタートアップのマーケティングとコミュニティ構築に必要な知識とスキルを提供するメンターシップを提供します。
- 資金調達に関するガイダンスとサポート:スタートアップがベンチャー企業の資金調達を決定した場合には、必要なガイダンスとサポートを提供します。
- 香港本社のオフィススペースの提供と現地でのサポート:スタートアップが珠江デルタ地域に居住している場合、またはチームの一部が香港に滞在することを希望する場合には、香港本社のオフィススペースを提供し、現地でのサポートを提供します。
また、SingularityNETのエコシステムでは、すでにいくつかのプロジェクトが財団からスピンアウトし、ネットワークの拡張プロジェクトとして機能しています。これらのプロジェクトは、SingularityNETのLayer2(SL2)プロジェクトとして機能します。
具体的には、以下のようなプロジェクトがあります。
- 大企業のニーズに対応するエンタープライズ向けの次世代AIソリューションであるSingularityStudio(金融、臨床医学、スマートシティなどの複数の垂直市場を対象としています)
- 分散型コンピューティングリソースプロジェクトのNuNet
- AIと再生医療によって人間の健康寿命を伸ばすことを目的としたRejuve
- メディアプロジェクトのMindplex(旧:Xccelerando)
- DAOとして構成された独自のLayer2非カストディアルDeFiソリューションのSingularityDAO
- 人間のコミュニティを引っ張ってアイデアを生み出すSophiaDAO
- OpenCogの新世代AGIアーキテクチャであるHyperonプロジェクト
- プラットフォーム間の価値交換として導入される分散型マルチパティ―インテリジェンスバーターシステムのOfferNets
- AGIの研究開発に焦点を当てたTrueAGI
- SingularityStudioとHansonRoboticsによる医療分野を変革するヘルスケアロボティクスベンチャーのAwakening Health
これらのSL2プロジェクトなどの成功は、最終的にSingularityNETのエコシステムにフィードバックされ、ネットワーク全体のパフォーマンス向上に貢献します。また、財団からスピンオフしたプロジェクトがトークンを発行する場合、総発行数の5%以上のトークンがAGI保有者にエアドロップされます。第一弾としては、SingularityDAOのガバナンストークンであるSDAOが配布されることが決定しています。
AGIトークンの実用性とメカニズム
SingularityNETは、AIや機械学習ツールをネットワーク化し、協調した人工知能を形成するための重要なプロトコルとなることを目指しています。現在のAIツールは閉鎖的な1社の環境によって開発されており、異なる2つのツールを接続して1つのタスクを実行する方法がありません。
この課題を解決するために、SingularityNETは、そのコア機能を有効にするために設計されたユーティリティトークンであるAGIを使用します。AGIトークンは、SingularityNETのバックエンドで必ず利用され、トランザクション、決済、インセンティブ、ガバナンスの4つの主要メカニズムを機能させるための構造になっています。
1)トランザクション
ブロックチェーン技術は、SingularityNETでの取引管理に理想的なツールであることは確かです。ただし、ブロックチェーンベースのフレームワークは、AIエージェント同士や外部の顧客とコミュニケーションができるように設計する必要があります。AGIトークンは、以下の方法でネットワーク取引を実現します。
- 相互運用性:このネットワークは、複数のブロックチェーンやネットワークインフラで利用可能になります。AGIトークンは、AIエージェントと顧客がどのような基盤技術を使用しているかに関わらず、合理的な方法で取引を行うことができます。
- モジュール性:柔軟なネットワーク機能により、顧客のトポロジー、AIエージェントのコラボレーションの取り決め、障害回復方法などの作成が可能です。
- スケーラビリティ:プライベートとパブリックの両方のコントラクトを安全にホスティングし、取引コストをほぼゼロで、よりスケーラブルでレジリエントなアプリケーションを構築することができます。
- データ主権とプライバシー:ユーザーによるデータの制御と共有は、ネットワーク上でプライバシーを考慮した制御が行われ、アクセスはスマートコントラクトとブロックチェーンによって認証されます。
2)決済
もしAGIトークンがなければ、AIエージェントがネットワーク内でサービスを利用する場合、他のプロトコルのネイティブ・トークンにアクセスする必要があります。これでは複数の商品、サービス、及びエージェントを統合する場合、非常に複雑になってしまいます。
AGIトークンがあれば、ネットワークを利用するユーザーは何千もの契約、テクノロジー、プロトコルの中からマーケットプレイスで取引を行うことができます。すべての取引は公に監査可能な単一の取引台帳上で行われ、買い手はあらゆる外部リソースや機能を簡単に統合することができ、売り手はあらゆる資産をシームレスにマネタイズすることができます。
3)インセンティブ
AGIトークンは、ネットワークに貢献することに対する報酬として配布されます。例えば、SingularityNETのプラットフォームにおける中心的な構成要素は、AIキュレーションマーケットです。これにより、次の2つのことが実現されます。
- 有用なAIエージェントを見つけるための発見プロセスの最適化
- AGIトークン保有者にステーキングを行うよう促す
本質的に、AIキュレーションマーケットは、ディスカバリーランキングメカニズムであり、以下のように機能します。
- SingularityNETの初期バージョンは、特定のカテゴリーのAIエージェントが直接ソースコードに組み込まれています。
- トークンホルダーは、特定のエージェントと特定のクエリにトークンをステークして、そのAIエージェントのステークランクを上げることができます。ステイクランクとレピュテーションランクは公開され、ディスカバリーランキングに影響を与えます。
- AIエージェントのレピュテーション評価に比例して、そのノードのステークホルダーはキュレーション報酬プールからAGIトークンを受け取ります。AIエージェントがタスクを正しく処理できなかったり、レピュテーションが低下するとステークは没収され、キュレーション報酬プールに預けられます。
トークン保有者は、高品質なAIエージェントの発見を促進することでプラットフォームから報酬を得ることができます。このAIキュレーションマーケットは、最も早くステーキングを提供したユーザーが最大の報酬を得る仕組みになっており、AGIの価格によっては、AIサービスを必要とするバイヤーに宣伝するためのコテージ産業を生み出す可能性があります。
現時点では、AIキュレーションマーケットにおけるステーキングサービスはまだ導入されていませんが、一方で、両替ゲートウェイ(法定通貨-暗号通貨)の流動性プールでは、2020年4月からステーキングサービスが利用可能となっています。
4)ガバナンス
市場取引は、SingularityNETのネットワーク内のAIエージェント間、またはAIエージェントと外部事業体の間で行われます。SingularityNETは、市場を育成するために、取引手数料を徴収しません。ネットワークの運営は、新たに作成されたトークンの一部を、ネットワークのインフラや関連ツールを提供する団体に支援することによって、民主的に賄われます。つまり、コミュニティにシステムを任せることで、システムがコミュニティの利益のために行動するようになると考えています。
SingularityNETは、シンギュラリティネット財団の支援を受けています。同財団は、AIの利益は、少数の強力な機関に支配されるべきではなく、全ての人に共有されるべきであるという信念のもとに運営されています。SingularityNETの主な目標は、技術が人間の基準に沿った博愛的なものであることを保証することであり、ネットワークは有益なプレイヤーにインセンティブを与えるように設計されています。
Tokenomics(トークノミクス)
SingularityNETのユーティリティトークンであるAGIは、ERC-20系トークンで、総発行数は10億になります。2017年12月21日に行われたトークンセールでは、1AGIあたり0.1ドルで販売され、翌日僅か66秒で完売しました。当時のToken Generation Event(TGE)には、4,000人以上が参加し、あまりにも人気があったため、最初の24時間は5ETH分の個別キャップが参加者全員に割り当てられました(プライベートプレセール)。その後は上限に達するまで、好きなだけ寄付ができるトークンセールの2段階方式が取り入れられました。当初、この両方のセールに50%が割り当てられる予定でしたが、最終的には54%に変更され、予定を超える32,847,814ドル分のETHが調達されました。このイベントの参加には、KYCを行う必要があり、承認された人のみがホワイトリストとして参加できました。
その他のトークンの配分は、コアチームメンバーに18%、シンギュラリティネット財団に8%、キャンペーンサポーターの報奨金に4%、報酬プール用に20%になっていました。報酬プールは、TGEの1年後から年2%の割合で、開発に40%、ベネフィッシャルに40%、キュレーションに20%が配布される予定でした。しかし、2021年1月28日に公開されたフェーズ1のレビューによれば、実際に行われたアロケーションは以下の通りに変更されました。
フェーズ1のレビューで公開された実際のアロケーション
アロケーション | 計画 | 実際 | 総供給 | 権利確定の時期 |
トークンセール | 50% | 54% | 540,000,000 | |
報酬プール | 20% | 2年目から10年間(年2%) | ||
財団 | 8% | 33.7% | 337,000,000 | |
創設者 | 18% | 8.4% | 84,000,000 | 2年間 |
報奨金 | 4% | 3.9% | 39,000,000 | 1年間 |
2019年、財団は長期化したクリプトウィンターの中で、予算の凍結や大幅な削減を行いました。6月からは、一時的に主要な幹部やサプライヤーへの支払いを停止しました。開発者への支払いは、相互合意によってAGIトークンで行うことが決定され、毎月現金化されました。Singularity Studioへの投資は減速しましたが、RejuveやNuNetなどの他のプロジェクトには引き続き投資が行われ、2019年末までに、初期貢献者に2,400万、アドバイザーに800万、他のプロジェクトの資金調達に940万、プラットフォームに210万、その他の開発に340万、マーケティングインセンティブとして66万、合計4,700万(4.7%)トークンが割り当てられました。
AGIトークンが過去最低の0.0074ドルになったのは、2020年3月13日でした。翌月の4月にはステーキングが開始され、毎月10万AGIトークン(0.12%:年)が流動性プール用のインセンティブに利用されました。マーケットは夏の終わりには回復しましたが、その年、財団は1億4900万AGIトークン(14.9%)を280万米ドル (@0.01879ドル)で売却し、プロジェクトの初期貢献者に170万、開発者へのインセンティブとして1,100万、アドバイザーに200万、マーケティングインセンティブとして79万、合計1,600万AGIトークン(1.6%)が割り当てられました。AGIトークンは、Binance、Bitrue、Kucoin、Uniswapなどで購入可能です。
以下は、3年間にわたる財団のAGIトークンの残高推移です。
財団保有分 | 2017年12月31日 | 2018年12月31日 | 2019年12月31日 | 2020年12月31日 |
AGI | 337,179,019 (33.7%) | 299,942,934 (30.0%) | 212,434,962 (21.2%) | 48,100,872 (4.8%) |
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CEOのBen Goertzel (ベン・ゲーツェル)氏の経歴
SingularityNETのCEO兼創設者であるベン・ゲーツェル氏は、1966年12月8日生まれ(54歳)のブラジル・リオデジャネイロ出身の人工知能研究者です。AIの研究に関しては1980年から取り組んでいます。
ベン・ゲーツェル氏は、AIソフトウェア企業Novamente LLCとバイオインフォマティクス会社Biomind LLCの会長を務めるほか、AIによるヘッジファンドAidyia Holdingのチーフサイエンティスト、OpenCog財団、AGI Society、ニック・ボストロム氏が創設した未来派非営利団体Humanity+の会長、バイオ製薬会社Genescient社の科学顧問、福建省中国アモイ大学Key Labの研究教授、AGIカンファレンスシリーズの総合議長、レイ・カーツワイル氏とピーター・ディアマンディス氏が創設したSingularity University及び機械知能研究所(旧:Singularity Institute)の顧問など、多岐にわたる経歴を持ちます。また、AIロボット・ソフィアの生みの親であり、2019年初頭までHanson Roboticsのチーフサイエンティストを務めていました。
今では一般的になっているAGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)という概念は、1997年にマーク・グブルド氏によって完全に自動化された軍事生産と運用の意味合いについての議論の中で使用され、2002年頃からベン・ゲーツェル氏によって世界に広められました。
業界団体Decentralized AI Allianceの設立
ベン・ゲーツェル氏は、AIとブロックチェーンに特化した新しい業界団体、Decentralized AI Alliance(DAIA)を設立しています。このDAIAは、2018年5月22日にSingularityNETとAI Decentralizedによって設立され、ベン・ゲーツェル氏がChairmanを、Toda Networkのトゥフィ・サリバ氏がPresidentを務めています。DAIAは、人工知能へのアクセスと創造を分散化し、民主化するためのシステムやツールに取り組んでいる企業、非営利団体、研究室を結びつけます。この団体には、現在世界中から50社以上の企業が参加しており、AI専門の分散型データ交換サービスを提供するOcean Protocol、宇宙産業をターゲットにしているNexusなどが含まれます。
DAIAのミッションは、「分散化され、民主的に管理されたオープンなAI技術の創出を支援し、AI技術の創出や利用にかかるコストや障壁を劇的に低下させ、AIの能力の進歩に合わせてAIの開発への幅広い参加を促し、幅広い利益の為にAIの応用を促進すること」です。このミッションによって、DAIAは、SingularityNETのエコシステムとしても機能します。
AGIを実現する3つのプロジェクト
SingularityNETは、AGI自体ではなく、ブロックチェーンを活用した分散型のAIプラットフォームです。しかし、AGIトークンの価値を本当に理解するためには、SingularityNET単体だけでなく、ベン・ゲーツェル氏がAGIの実現に向けて取り組んでいるOpenCog、TrueAGIの3つのプロジェクトを総合的に理解する必要があります。
ベン・ゲーツェル氏がスーパーインテリジェンスへの進化の過程における仮説や考え方、アプローチを説明するTEDxBerkeleyの動画があります。この動画を通じて、ANI(特化型人工知能)からAGI(汎用人工知能)、そしてASI(人工超知能)への進化について理解できます。また、彼の個人サイトや多元宇宙論についてもリンク先から読むことができます。
OpenCog(オープンコグ)プロジェクトとは?
OpenCogは、Atomspace(アトムスペース)と呼ばれる高度な知識グラフを中心とした単一のソフトウェアフレームワークで、確率論理、進化論的学習、パターンマイニング、アトラクタニューラルネットワーク、深層ニューラルネットワークなど、複数のAIパラダイムを統合して、AGIの実現を目指すオープンソースプロジェクトです。2008年にベン・ゲーツェル氏と、SingularityNETのCTOであるカシオ・ペンナチン氏などによって立ち上げられました。
OpenCog Primeは、人間と同等の人工知能(AGI)を生み出すように設計されたアーキテクチャであり、一連の相互作用コンポーネントを定義し、ロボットおよび仮想具現化認知のために使用されます。OpenCog Primeは主にベン・ゲーツェル氏による設計であり、OpenCogは広範なAGI研究のための一般的なフレームワークとして意図されています。現在は、2022年にリリース予定のOpenCog Hyperonに焦点を当てて、より拡張性の高い新しいプラットフォームを構築しています。
OpenCogは、香港政府、香港理工大学、ジェフリー・エプスタインVI財団、Hanson Roboticsなど、いくつかの組織から資金提供と支援を受けています。設立当初は、Machine Intelligence Research Institute(MIRI)によって支援され、その後Google Summer of Codeに参加して多くのオープンソースコミュニティからの貢献を受けました。
OpenCogプロジェクトは、SingularityNETおよびHanson Roboticsと提携し、Huawei、Cisco、および創設パートナーであるHanson Roboticsを含む50社以上で使用されています。
OpenAIとは異なるAGIへのアプローチ
AGIに取り組むプロジェクトは世界中に数多くありますが、中でもOpenCogと同様に注目を集めているのがOpenAIです。OpenAIは、イーロン・マスク氏とサム・アルトマン氏によって2015年12月に設立され、設立当初から個人投資家から10億ドルの資金を集めました。設立者の2人のほか、ピーター・ティール氏などが投資家の一人です。
イーロン・マスク氏は2019年2月に会社の方向性に関する意見の違いを理由にOpenAIから手を引きましたが、サム・アルトマン氏が2019年3月に法人化を行い、現在はOpenAI LPのCEOを務めています。そして、2019年7月にはMicrosoftがOpenAI LPに10億ドル、2023年1月には追加で100億ドルの資金を投じています。
OpenAIは、新しい手法によってAGIを開発するのではなく、既存のディープラーニングを大規模にスケールさせることでAGIを実現しようとしているようです。ベン・ゲーツェル氏は、2016年12月26日にQ&AサイトQuoraでOpenCogとOpenAIの違いについて以下のように回答しています。
OpenCogにはいくつかの側面があります:
1つ目は、共通の重み付けやラベル付けされたハイパーグラフ知識ストア(Atomspace)上で複数の認知プロセスが相互運用できるように設計されたソフトウェアフレームワークです。
2つ目は、Goertzel、Pennachin、Geisweillerの著書「汎用知能のエンジニアリング 第2巻」の設計に基づく、人間レベル (またはそれ以上) のAGIの構築を目指すプロジェクトです。
3つ目は、上記のような目標を持つコミュニティと非営利団体です。
現在、OpenAIはOpenCogよりもはるかに多くの資金を調達しており、深層ニューラルネットワークに焦点を当てています。OpenCogにも深層ニューラルネットワークの要素はありますが(香港とエチオピアで知覚のための深層ニューラルネットワークの統合に関する実験が進行中です)、アーキテクチャやプロジェクトの中心的な側面ではありません。
OpenCogとOpenAIの数多くの違いを理解するための第一歩は、OpenCogが人間のような汎用知能の包括的なモデルと、そこから人間レベル(またはそれ以上)のAGIを達成するための包括的な全体計画に基づいている点に着目することです。
一方、OpenAIは(公開された声明や行動から判断すると)、現在の深層ニューラルネットワーク技術を基盤とし、さまざまな興味深く価値のある方法で適用し拡張していくことで、包括的な計画やAGI問題全体のモデルを持たずに、AGIへと段階的に向かう計画に基づいているように見えます。OpenCogでも同様な漸進的な実験や改良を行っていますが、OpenCogには明確に定められた高レベルの認知モデルと計画が存在します。
現時点でのもう一つの実用的な違いは、現在OpenCogコミュニティの多くのメンバーが、Hanson Roboticsとの共同研究の中でOpenCogをヒューマノイドロボット工学に適用する取り組みに携わっている点です。一方、OpenAIは別の種類の課題に注力しています。OpenCogは他にもさまざまな分野で利用されており、ロボット工学に限定されているわけではありませんが、現在の取り組みの相当部分はロボット工学に向けられています。したがって、ヒューマノイドロボットの制御に興味があるなら、OpenCogのほうが適しているかもしれません。
最後に、コミュニティとしての違いですが、OpenCogは戦略や意思決定などに関してよりオープンであるように見えます。TensorFlowは「オープンソースだが戦略はクローズ」なプロジェクトの一例です。OpenAIはTensorFlowほどクローズではありませんが、OpenCogよりもはるかにクローズです。OpenCogは、昔ながらの「Libreソフトウェア」コミュニティ精神にのっとり、ほとんどすべてを公開しています。
2016年12月26日のQuoraでの投稿
TrueAGI(トゥルーエージーアイ)の役割
現在のブロックチェーンのエコシステムでは、データ管理に関するプライバシーやセキュリティの問題が指摘されています。TrueAGIは、法人向けにAGIのカスタマイズ、ホスティング、デプロイメントを行い、エコシステムにおけるAGI戦略の統合、開発、維持を支援し、垂直市場において企業が最先端のクロスパラダイムAGIテクノロジーを活用できるようにします。
TrueAGIのホスティングサービスには、従来のクラウドベース、分散型ブロックチェーン駆動型、そのハイブリッドの3つのタイプがあります。これらのサービスは、APIでOpenCog Hyperonを実行するAGIサービスに接続し、複数のソースから既存の大量のデータにアクセスすることで、企業のソフトウェア・モデルを活用しながらカスタマイズされたソリューションを提供します。
TrueAGIは、SingularityNETやOpenCogコミュニティーと協力し、スケーラブルなエンタープライズレベルのHyperonを提供するために必要なツールセットを構築します。2022年のインサイダー・プレビュー版を経て、2023年から本格的にMVP(Minimal Viable Product)の提供を開始する予定です。
SingularityNETがカルダノに移植する4つの理由
2020年10月1日、シンギュラリティネット財団は、現在のEthereumではSingularityNETのビジョンを実現できないため、一部の機能をカルダノに移植することを検討していることを発表しました。カルダノへの移植は、2021年から2025年までの5年間にわたるフェーズ2計画とともに、トークン保有者による投票で決定されます。
今回のEthereumからカルダノへの移植では、以下の4点が主要なポイントとなります。
- トランザクションコストとスケーリング問題の改善
- マルチチェーン展開の実現
- 複数のAIエージェントの連携を可能にするAPI-of-APIsの実装
- OpenCog Hyperonとの相乗効果
マルチチェーン展開
カルダノへの移植は、Ethereumのブロックチェーンの速度や単純なガス代などの問題だけでなく、今後の重要なファクターをSingularityNETエコシステムに提供します。
まず、SingularityNETのプロトコルの設計は、当初から単一のブロックチェーンだけでなく、マルチチェーンにすることが議論されてきました。2019年の後半には、SingularityNETの一部をTODAベースに移植することが真剣に検討されましたが、TODA/IPプロトコルのオープンソースの実装に追加の開発が必要だったため、現在のところ実現されていません。また、カルダノだけでなく、NEMに移植する実験も行われており、過去にはAlgorandとのスケーラビリティの実証実験も行われました。
カルダノは、今後のSingularityNETのエコシステムでは、レイヤ0のEthereumと同じ扱いを受けます。カルダノのPlutus(プルータス)を使用することによって、現在のSolidityベースのスマートコントラクトの類似品を作ることが可能になります。また、AGI(ERC-20)トークンは、カルダノとの相互運用性を備えたコントラクトに変更するためにハードフォークが行われ、新たにAGIX(ERC-20)に名称が変更されます。カルダノのERC-20コンバーターツールは、このAGIX-ERC20とAGIX-ADA間のスワップを実現します。
SingularityNETのSL2 Assetsをサポートする最初のツールは、Cardano Native AssetsとERC‑20トークンに焦点を当てていますが、いずれはAvalancheやCosmosなどの他のプラットフォームにも拡張可能になるでしょう。
AI-DSLにより念願のAPI-of-APIsの実装が可能に!
現在のSingularityNETは、画像処理、自然言語処理、時系列解析、ゲノムデータ解析などの分野で、直接エンドユーザーにサービスを提供する比較的単純なAIエージェントをホストするために使用されています。例えば、スマホアプリのSongSplitterでは、Android SDKを通じて音声ファイル内のボーカルと音楽を分離するためのツールが利用されています。
しかしながら、SingularityNETのビジョンは、複数のAIエージェントが連携して他のAIに仕事を委託して問題を解決する、相互運用性を兼ね揃えた自己進化型のAIサービスを提供することです。これは、マーヴィン・ミンスキー氏によって書かれた「心の社会(The Society of Mind)」の分散型を作ることであり、この実現にはプラットフォーム内における「meta-API」や「API-of-APIs」の実装が不可欠です。
カルダノのGoguen期のPlutusは、関数型プログラミング言語のHaskellのメリットを持つスマートコントラクトの作成を可能にします。これまでSingularityNETの研究者たちは、IdrisやLiquid Haskellなどの依存型付けの最新の関数型言語を使用して、Ethereum上にAPI-of-APIsをプロトタイピングしてきました。しかし、Ethereumではカルダノとは異なり、会計と計算が異なるレイヤーに分かれていないため、実装には大きな問題がありました。カルダノのPlutusは、現在のEthereumベースのスマートコントラクトと比較して、このAPI-of-APIsの実装に特に適しています。
具体的には、Plutusは金融コントラクト用のDSL(ドメイン固有言語)であるMarloweのようなものの作成を容易にするために設計されています。SingularityNETのAIコントラクト用のDSLをPlutusにコンパイルすることで、直接カルダノのスマートコントラクト内に埋め込むことができます。このAI-DSLは、ベン・ゲーツェル氏とチャールズ・ホスキンソン氏が中心となって、SingularityNETとIOGのコラボレーションプロジェクトとして進められており、2023年のQ2-Q3頃に最初のプロトタイプがリリースされる予定です。
OpenCog Hyperonとの統合にも期待
さらに、カルダノとの統合は、OpenCog HyperonとSingularityNETの統合にも相乗効果があるかもしれません。現在、Hyperon Atomspaceを利用するためには、Solidityベースでの実装が必要であり、OpenCogシステム全体をラップするAIエージェントを作成し、その内部にAtomspaceとAIプロセスの集団を作る必要があります。
しかし、カルダノのPlutusを導入すれば、Atomspaceを必要とする個々のAIエージェントに直接サービスを提供できるかもしれません。学術研究を駆使したカルダノへの移植は、より分散化された汎用人工知能(AGI)へのアプローチになります。このように、カルダノとのコラボレーションは、SingularityNETを次のステージに引き上げる可能性があります。
SingularityNET フェーズ1の総括
シンギュラリティネット財団は、フェーズ1の財務及び運用レビューを公開しました。この3年間(2018‑2020)にわたるレビューでは、2018年1月から始まったクリプトウィンターによって財団の財務能力が低下し、スタッフの削減や開発の優先順位の決定など、当初予定されていた一部の計画を変更せざるを得なかったことが説明されています。
具体的には、TGEで集められた約3,450万ドルの資金は、その後5年から7年に渡って運用される予定でした。しかし、実際に開発費を賄うためにETHやBTCを現金にした時には約1,500万ドルにしかならず、このタイムラグにより約1,900万ドルの損失が発生したそうです。これによって、財団の人員は2019年には90人から45人に減り、2020年には35人に削減されることになりました。またトークンの価格下落によって、開発のインセンティブとしてAGIトークンを使用することが困難になり、計画されていた一部のコミュニティ開発の取り組みも実現しなかったそうです。
現在、財団自体は2期連続で赤字ですが、2018年以降は経営努力やAGIトークンの売却により財務は安定してきています。しかし、財団のトークンの保有比率も既に5%を切っており、非常に厳しい状況が続いています。新たに始まるフェーズ2では、プラットフォームをより高次元に引き上げるために、今より多くの人的リソースが必要になります。一方でエコシステムでは、2019年から投資されているSL2、SL3プロジェクトなど(NuNet、Rejuve、Studio、Xccelerando等)なども本格的に稼働し、今後のAGIトークンの大幅な利用促進が期待されています。
SingularityNETフェーズ1最終レポート
以下からフェーズ1のレビューをダウンロードできます。AGIトークンを保有している方は、じっくりと読み込んでおくことをお勧めします。
財務レポート
損益計算書(P/L):単位米ドル
Profit & Loss(損益計算書) | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
Income(収入) | |||
Proceed from Token Sales | 34,507,340 | 852,687 | 2,787,482 |
Sales & Grants | ‑ | 434,463 | 61,951 |
Total income(総収入) | 34,507,340 | 1,287,149 | 2,849,433 |
Operating Expenses(営業経費) | |||
AI Research & Development | 3,129,143 | 2,664,114 | 1,209,411 |
Business Development | 575,233 | 500,842 | ‑ |
Marketing | 1,254,397 | 734,169 | 130,249 |
Operations | 1,061,295 | 851,939 | 182,265 |
Platform Development | 688,505 | 945,310 | 694,708 |
Total Operating Expenses(営業費用合計) | 6,708,573 | 5,696,374 | 2,216,633 |
Other Expenses(営業外費用) | |||
Legal Expenses for the ICO | 1,479,000 | ‑ | ‑ |
Crypto Exchange Gain or Loss | 8,958,759 | (468,730) | ‑ |
Unrealised Gain or Loss on Crypto assets | 10,197,269 | (1,846,017) | 728,675 |
Capital Gain or Loss on AGI | 103,454 | ||
Total Other Expenses(その他費用合計) | 20,635,028 | (2,314,747) | 832,129 |
Net Income(当期純利益) | 7,163,739 | (2,094,477) | (199,329) |
「Discussion Paper on Accounting for Crypto-Assets (Liabilities): Holder & Issuer Perspective」を参照
貸借対照表(B/S):単位米ドル
Balance Sheet(貸借対照表) | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
Assets(資産) | |||
Cash | 4,174,542.81 | 310,458.83 | 189,746.01 |
ETH | 1,256,478.77 | 35,513.14 | 168,218.40 |
BTC | 1,579,117.26 | 1,145,998.54 | 1,445,041.22 |
Pre-paid Contract | 250,000.00 | ‑ | ‑ |
Intangible Assets – AGI | ‑ | 3,637,098.98 | 2,572,867.54 |
Long Term Investments | ‑ | 444,009.46 | 1,197,827.91 |
Total Assets(総資産) | 7,260,138.84 | 5,573,078.94 | 5,573,701.07 |
Liabilities(負債) | |||
Accounts Payable | 96,400.00 | 503,817.61 | 703,769.23 |
Total Liabilities(総負債) | 96,400.00 | 503,817.61 | 703,769.23 |
Net Income | 7,163,739.09 | (2,094,477.39) | (199,329.37) |
Retained Earnings | ‑ | 7,163,739.09 | 5,069,261.70 |
Net Assets(純資産) | 7,163,739.09 | 5,069,261.70 | 4,869,932.33 |
Total Liabilities and Net Assets (負債純資産合計) | 7,260,139.09 | 5,573,079.31 | 5,573,701.55 |
SingularityNETはフェーズ2へ
SingularityNETは、今後5年間に渡るフェーズ2のロードマップを公開しました。また、正式にカルダノへの移植が決定し、発行上限のあったAGIトークンもAGIXにハードフォークが行われました。これにより、2021年にはSingularityNETプロジェクトは新たな次元に突入することになります。
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